【戸別訪問】胃ろうでも食べたい

胃ろうの選択

年齢を重ね、病気などにより口から食事を摂ることが難しくなると、“胃ろう”という選択肢が出てくるようになります。
通所を利用中の場合、その施設によっては胃ろうをしている利用者さんは、施設内での経口摂取には消極的であることが多く、胃ろうを選択すると、口からの食べる楽しみが、奪われることになる方が少なくありません。

今日は『胃ろうになっても食べたい』を叶える、そんな戸別訪問についてお話しします。

食べるための訓練

Aさんは要介護5で胃ろうの方です。入院中に経口摂取困難との判断で、胃ろうを選択されました。自宅への退院の際に『楽しみレベルの経口摂取可』との判断で退院。自宅へ帰られた後、お楽しみレベルの経口摂取を安全に継続するため、ご家族指導を中心とした関わりをしてほしいとの依頼でした。

一見すると、意思表示も適切であり、食事能力が高く、すぐに経口摂取が出来そうに見える方なのですが、やはり専門的にみるとリスクが高かったため、ゲル化剤を用いたムース食などが適していると判断しました。ご家族も調理に対して理解のある方だったため、退院後から積極的にムース食やソフト食の調理指導を行いました。その結果、ご家族が家庭で本格的なソフト食を作れるようになり、必要栄養量は胃ろうで摂りながらも、3食のうち1〜2食はご家族の手料理が食べられるまでになりました。

これは、嚥下障害が改善したというよりは、ご家族の調理のへの理解が進み、本人の嚥下能力にマッチした食事が提供できるようになったということが、一番の理由です。実際、嚥下機能が重度に障害されているわけではなく、体力や集中力などの関係から、必要量を摂取することが難しい方だったため、胃ろうは栄養確保のために必要だったとも言えます。

通所のご飯を食べたい

Aさんは週に何度かデイサービスへ出かけます。胃ろうになる前からそのデイサービスに通っていたため、馴染みもあるのですが、「あそこのご飯が美味しい」「あそこのご飯が食べたい」と度々訴えがありました。しかしながらその施設で提供できる食事は、普通食・刻み食・ミキサー食の3形態。調理を担当する方もやわらか食やソフト食などへの経験がなく、それらを要望することは困難な状況でした。

Aさんの強い要望を受けたご家族から、デイサービスでのお昼ご飯を食べさせに行ってほしいいと依頼を受けました。担当者会議を開催し、Aさんのお昼ご飯の食事支援に、Aさん個人に対し、施設へ戸別訪問するということになりました。これはあくまでAさん個人に対する戸別訪問であり、私が普段行っている施設指導とは異なります。

通所へ訪問

訪問を開始し、通所での食事をわたしの介助で摂るようになりました。訪問を開始して最初の頃は、要介護5の胃ろうの方がご飯を食べているということに、職員の方々も緊張した様子でした。しかも提供していただいた食事はなんと・・・普通食。この普通食の中からAさんの嚥下能力に適したものを選択し、その場で潰したりとろみをつけるなどの加工をし、介助するという方法になりました。

なぜ普通食にしたのかというと、Aさんは咀しゃく能力に問題があり、刻み食はハイリスク(参照記事)でした。ペースト食もAさんの舌の動きから不適切だったため、選択肢が他にない状態だったのです。(注意:あくまでこの利用者さんの嚥下能力が高かったためこの選択となっています)

訪問の回数を重ねるにつれ、徐々にスタッフの方々も慣れ、どういうものなら食べられるんだということが分かるようになってきました。幸い、通所スタッフの方々のご理解もあり、徐々にスタッフで食事介助をしていただけるように進めていくことになりました。しかし、それを安全に実行するためには、乗り越えなければならない点がいくつもあります。安全な食事形態が提供される、提供された食事の中から食べられるものを選択する、介助をする人材が途絶えないなど・・・。

継続性のある支援を目指して

施設の方のご理解もあり、少しずつ引き継ぎの方向へと進んでいます。しかしまだ安心して引き継ぐためには、話し合いや助言・指導を繰り返していく必要性があります。どのようにして安定した食事介助をしていくのか、施設内で職員教育をどうするのか、時短勤務の職員との連携はどうして行くのか、など課題は山積みです。

『個別』のための『戸別』

戸別訪問だからこそ施設へ介入できる。
『個』のために『戸』で支援する。
それが本来の支援のあり方だと思っています。

そんな働きかけを、今、私自身学んでいるところです。

【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。