長年私が口にしているこのことば。『支援学校給食改革』。それはもう、呪文のように何度も唱えているのですが、なんで変えたいのか、何を変えたいのか。今日はこれについてのお話です。
給食改革って?
そもそも給食を変えたいとはどういうことか?具体的に言うと目標は2つ。
- 食事形態を変える
- 食事介助の方法を変える
給食見学で、現場を知る
10年ほど前にさかのぼります。当時私は訪問看護ステーションに勤務していました。受け持ちの利用者さんの中には肢体不自由児が数名いて、実際の食事状況を見るために、ときどき支援学校にお邪魔して給食の見学をしていました。
ある児童の給食を見に行った際に、ミキサー粥が糊のようになっていることに気がつきました。そこで、当時の管理栄養士さんに相談し、粥専用のゲル化剤を使用できないかアプローチしました。しばらく交渉をした結果、なんとか専用ゲル化剤を導入する予算が下りることとなり、ミキサー粥の食事形態が改善しました。
その数年後、今度は主食の形態が、ミキサー粥、全粥、米飯の3形態であり、いわゆる『軟飯』が存在していないことが分かりました。それについても、当時の管理栄養士さんと交渉しましたが、そのときは炊飯器が足りないとの理由で却下されました。それでも、なんとか変えたいと交渉し続け、その栄養士さんが退職する3月になって私の元へ電話があり「炊飯器一台確保できたので、軟飯をメニューに加えて退職できます!」とのお話がありました。
限られた状況の中で
このように、お粥をゲル化するには特殊ゲル化剤の購入費、軟飯を炊くには炊飯器、そしてそれらを調理する人員などが必要ということを学び、給食を変えるには『予算』が付いて回るということを少しずつ学びました。
その為、限られた予算・限られた人件費・限られた献立・限られた調理場面積・限られた調理道具のなかで調理をしなけらばならないということがよくわかり、現場の管理栄養士さんや調理師さんの努力を目の当たりにしたわけです。
衝撃の給食
ある日、上述の通り学校給食の見学へ。その日の献立が、「子持ちシシャモのフライ」だったのです。私の担当児童A君はミキサー食。何せ子持ちシシャモのフライのミキサーですから、そりゃ食べられるわけもなく、むせながら無理やり食べている状況でした。担任の先生も、なんとか食べさせてあげたいと必死。本人も食べなきゃと必死。
悩んだ挙句、「ここまでにしましょう」と制止しました。
STが介入したせいで、というか私の判断で、A君は、食べることを制止させられ、午後の授業を空腹で受けることになったのです。
これは、人権侵害じゃないのかな・・・?
STとしての仕事がこれでいいのかな・・・?
と、激しい罪悪感に見舞われました。
そんなとき、隣で激しいむせ込みが。隣の席のB君が、シシャモで窒息しています。彼も嚥下障害があるようなのですが、なぜか常食が提供されていたのです。教室で先生がキッチンバサミでカットしていましたが、それが詰まったようでした。
緊急事態だったので、すぐさま対応し、事なきを得たわけですが、目の前で給食中に児童2名が食事の事故を起こしている状況に衝撃を受けたわけです。
できる対応何か?
私の担当児童であるA君については、すぐに栄養科へ連絡し、以後ミキサー食等にはシシャモは使わず別メニューでの対応となりました。すぐに動いていただける栄養科で本当にありがたかったです。
けれど常食でのシシャモは提供されることには変わらないので、B君への対応は変わらないのです。B君には担当セラピストがいないとのことで、担任の先生に良ければ専門家へおつなぎするようお声掛けするにとどまりました。が、その後STが介入することはありませんでした。
問題提起を止めない
こんな経験から、何とかして給食改革をしたいと思い、もはや使命感に駆られて今もそれを叶えるために、日々模索しています。
限られた環境の中で、給食を作る栄養科の皆さんの努力も無駄にしてはいけない。
提供された給食を、子どもたちに食べさせたいという、先生方の想いも無駄にしてはいけない。
なにより、美味しい給食を食べたいというお子さんの想いを尊重したい。
学校で美味しい給食を食べてきてほしいという、親御さんの想いを尊重したい。
私のような、ただの一人のSTにできることなんて限られているのです。けど、やっぱり問題提起して、訴え続ける人がいなくなれば現状維持し続けてしまう。
STが介入したことで食べられないなんて、そんな夢のない仕事はしたくない。
STが介入したからこそ食べられる人が増えた、そんな仕事がしたいのです。
正直いま、身動き取れない状況です。いくつかの解決策を、いろんな方法で発信していますが、まだまだ壁は高く厚いのです。
でも、ここに、こんなこと考えているSTがいるよ、と発信し続けることはやめてはいけないのかな、と感じています。同じ思いのSTさんが増えたらいいなと、思っています。
絶対に変えよう。
【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。
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