何度かこちらのブログでお伝えしている、刻み食のはなし。
※1:刻み食はやめて⇒☆
※2:刻み+トロミ食はOK?⇒☆
今日は、刻み食をやめるなら、結局どう対応すればいいのかについて考察します。
結論を先に
私の考える結論だけ先に言うと、『決まった対応』はありません。そう、『絶対的』なものはないのです。
ですが、ここではあえて私のやっている実際の対応について、お話しします。
なぜ『刻み食』は無くならない?
理由は一つ
作るのが簡単だから
そうなんです。刻み食は作るのが簡単なんです。
病院、施設、支援学校のような集団調理の場合、一度に数十~数百名分の食事を作る必要性があります。そして、多くの場合、その大半が「普通食」なんです。
その為、全員分の普通食を作ったのち、一部取り分けてから、それを刻んだり、ミキサーかけて、嚥下障害への対応食を調理することになります。「普通食が基準」なのです。
普通食を基準に献立があるため、刻み食やミキサー食にも適さない食材も調理されます。たとえば、海藻類、練り物、イカ・タコ、生野菜。わたしが衝撃的だったのは子持ちシシャモのフライ。これらは、普通食の中で使用される分には問題になりませんが、これらを嚥下障害への対応食にするとなると、非常に難易度が上がります。
そのため、一部の施設では、嚥下障害への対応食は、献立の段階から食材を変えたり、調理方法を変えることもしていますが、それはやはりごく一部です。なぜかと言うと、予算がかかるのです。
なぜ対応食には予算がかかる?
嚥下障害への対応食を作るためにはどういう作業が必要となるでしょうか?
- 軟らかくするためには長時間炊く
- 圧力鍋やスチコン(スチームコンベクションオーブン)などの調理器具を使用する
- ゲル化剤を使用する
- 別メニューを考案
などが挙げられます。これらを行うために予算が要るのです。例えば・・・
- 長時間炊く⇒非常勤調理師の勤務時間延長
- 圧力鍋等の調理器具の購入費
- 圧力鍋を使用するコンロの設置
- ゲル化剤購入
- ゲル化した食品を冷却・保冷・保温するための機材購入費
- 各種機材を設置する棚・場所の確保
- 調理師の確保
・・・などです。衛生基準等の問題から、冷蔵庫や作業台の広さ、人員などもあり、きっと他にももっと問題があると思いますが、この問題解決には予算が必要となることが多く潜んでいるため、なかなか食事形態変更に至らない。そういう実態があります。
こういった理由からも、現場から「刻み食」を消せないことが分かります。
じゃあ、刻み食は残す?
もちろん私は、刻み食をなくしたいです。けれど、代替案や代償できる食形態が提供できなければ、無くすことはできません。一方的に「刻み食は危ないからやめて」だけを押し付けることは間違っています。
わたしはこう考えています。
刻み食をやめることが目的ではない
安全な食事を提供することが目的です
つまり、「安全」を目的としているので、そこを目指すための検討が必要なのです。
『安全』をめざそう
この「安全」の中には、嚥下障害者にとって誤嚥しにくい食事形態の提供と言う意味も含まれていますが、それだけではありません。長期的に安定して提供できる、という環境側を整えることも「安全」のひとつに含まれると考えます。調理負担を調理現場に押し付けて、調理師が退職してしまう・・・では本末転倒。調理師の負担軽減も「安全」に通じます。またソフト食を作る場合、調理⇒ゲル化のために一度冷却⇒再加熱の工程が必要となります。この“冷却”の際の作業スペースが確保できなければ、そもそも調理ができません。調理室の敷地面積など、物理的に作れない環境も生じます。こういった調理場の衛生管理基準を含めた諸々の問題をクリアすることも必要です。
そして何より、「当事者が食べたくなる食事」も「安全」に含まれます。だって、食べたく無くなるような食事が出続けたら、食べられなくなる。そうしたら食事量が減ってしまい、低栄養となり、体力も衰え、免疫力も衰え・・・ということもあり得ます。安全どころか不健康。
このように、本人の要因・環境的な要因全てを重ねて考えると、達成できる安全の形は異なりますね。
びぃどろの『戸別訪問』の意味
わたしは施設等への戸別訪問も行っています。そうすると見えてくることがあります。同じ利用者さんに対して、家庭と施設・病院・学校等で、みんな食事形態が違うのです。
調理する人・環境が違うのですから当たり前です。それでいいのです。一律な対応を求める方が絶対に無理ですし、それは必要ないと思っています。
何度も言いますが
「刻み食をやめることが目的ではありません。安全な食事を提供することが目的です」
この人の能力を見て
この人の家族を見て
この人を囲む環境を見て
その「個」や「戸」にとって、いちばん安全になる食事を見つけることが必要です。ですから対応は一律ではありません。その目的さえブレなければ、きっと対応方法が見えてくるのではないでしょうか?
私は『だんらんコーディネーター』として活動しています。だんらんコーディネーターだからこそ、個人の能力だけを見て食事形態を決めるのではなく、その方を取り囲む全体をみて、ご家族や友人とだんらんできるよう、その人が過ごす、その場所に、一番適した食生活を、それぞれ提案したいと考えています。その為に、ご本人、ご家族を含め、関係する方々などの多職種へ働きかけをおこなっています。
問題提起をし、多職種と検討し合う向こうに、 食事支援の広がりがあります。
私が『個別』ではなく『戸別』の訪問を続けているのは、それが目的なのです。
【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。
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