【びぃどろ講座】訪問リハで料理をしよう

先日の戸別訪問は医療的ケア児のAくん。お口から食べられそうな食事形態について検討しました。今日はその話

動画チェックから

実際の訪問やオンライン指導をする時にお願いしているのが、任意ではありますが動画を時々撮って送っていただくと言うもの。

メール相談室まぁぶるではその動画を評価して、編集してお返ししていますが、この場合の動画は少し意味合いが異なります。

訪問やオンライン相談室の事前資料として提示していただくだけです。ですから評価して返送などは行いません。けれどこれを送っていただくことで、現在の状態についての情報収集をスムーズにおこなえて、事前準備して挑めると言うメリットがあります。

実際の訪問やオンラインは時間制限がありますので、最大限に活かす工夫がしたいと考え、この動画確認を任意でお願いしているんですね。

そんなわけで今回の「Aくん」。事前に動画チェックを行っていました。

胃瘻で全く食べることができなかったA君ですが、少し食べられるようになりましたとのご報告。どれどれ見てみましょう。ミキサーにかけたお味噌汁を美味しそうに飲んでいます。でも…あれ?なんかおかしいな「飲めて・・・る?」

飲んでる?飲んでいない?

結論だけ言うと、飲んではいます。お味噌汁1杯をしっかり飲んでいます。けれど飲み方がなんかおかしいんですね。

A君の汁の飲み方は、お椀を自分で掴んで、お椀に直接口をつけて飲んでいます。スプーンで介助をするわけではなく自分でゴクゴクと飲んでいるように見えるのですが、なんかおかしい。

これがいわゆる「誤学習」と言われるものです。この誤学習を続けると、年齢によっては修正が難しくなります。この飲み方をし始めたのはここ1ヶ月とのこと。今、直さないと!!

どうやって直そうか?

まずは食事形態。汁を飲むスタイルだと、この誤学習を助長してしまいます。ですから、食事形態を変更します。ご家族にミキサーを出してもらってなんとか完成。

味噌汁がこんな感じになります。

事前に自宅で試作していました♪

それをご家族が作れるようにレクチャーするところからスタート。

さらに、栄養計算も行います。まだやや栄養が足りないようだったので、この食事形態で何を足すことで調理の手間を最小限にして、必要栄養量を満たせるかについて検討をします。

オススメの商品があったので、そちらの購入を打診。購入されるとのことだったので、それの使い方やアレンジ方法を説明し、説明書を後日送ることにしました。

訪問の中で料理をする意味

言語聴覚士が訪問中に料理をすることは、それぞれの考え方があると思いますが、私は積極的に行っています。

理由はシンプルで、その食事形態を作る環境がなければ、どれだけ指導しても、どれだけ訓練しても机上の空論になってしまうからです。

家庭によって作れる食事形態はまちまちです。料理の得意なママさんでしたら、上記のような食品も簡単に作れます。けれど老老介護で、おじいちゃんが調理をするならそれはできないことが多いでしょう。

同じような嚥下能力でも、こうやって家庭が異なると、ミキサー食になったり、ソフト食になったり、とろみつき刻み食になったりと、変化するのが家庭なのです。

ですからその調理をする人と、その台所で、そこにある調理器具を使って試しに作ることで、そのご家族は「自分のこと」として動けるようになるのです。

病院ではここまでのことはできません。それでいいのです。病院から退院されるときに、生活期のスタッフが「どうぞ一緒にやりましょう」と自然と訪問でフォローできるようになればいいのです。

病院が安心して生活期に送り出せる。そして生活期のスタッフは自信を持って請け負える。そう言う関係を作ることが、セラピストには求められているのかな?と思っています。

Aくんのその後

ちなみにこのAくん。お母さんの性格などから、あまり難しい食事形態を勧めることはできない状況でした。最小限度の変更とし、通所施設へ打診することに。

幸い彼の通う通所施設は、私が施設指導として介入している施設だったため、担当者へ連絡。通所での給食再開と口の使い方の矯正方法についてスタッフ指導するところまで、スピーディに行うことができました。

A君の「誤学習」の矯正はまだまだこれから。今からが頑張りどころです。

【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。