先日オンライン相談室に、失語症のご利用者さんからのご相談がありました♪今日はそのお話。
失語症って?
失語症という障害をご存知でしょうか?
失語症とは脳梗塞や脳出血などのいわゆる「脳卒中」によって、大脳の言葉を司る部位を損傷し、「話す」「聞く」「読む」「書く」「計算」の全ての能力に障害を負うものを言います。
この「話す」「聞く」「読む」「書く」「計算」それぞれの障害の重症度は人によりまちまちであり、その状態によっていくつかにタイプ分類されます。
今回ご依頼いただいた相談者の方は「話す」「書く」に対して重い障害を抱える方でした。以前にも同じタイプの失語症の方についてこちらでお話したことがあるのですが、今回は女性。何度かセッションをする中で、ちょっと話題に出たお話を目標にすることにしたのです。
私のレシピを残したい
この女性、Aさんには中学生のお孫さんがいます。市内にお住まいで、幼い頃から頻繁に行き来しており、Aさんのお宅でお食事をとることもしばしばあったようです。
数年前に失語症を発症したAさんですが、自宅に戻られてからも変わらずお孫さん一家との交流が続いています。幸いAさんは右半身に麻痺はあるものの、ご主人さんの協力を得ながら、工夫して料理もなんとかこなしていらっしゃいました。
さてそんなAさんですが、お料理が得意ということもあり、お孫さんの好きなメニューが、カレイの煮付け。どうやらAさんが作るカレイがお好きだとのこと。なんかいいなぁ、そういうの。
で、ある日お孫さんが学校の家庭科の授業で、魚料理のレシピをまとめる授業があったそうで、どうしてもAさんのカレイの煮付けにしたいとおっしゃるのです。
とは言えAさんは失語症。話すも、書くもとっても難しい。けれどAさんは「紙に書いてレシピをまとめてみたい」そう思うようになったのです。
じゃあ作ろう
そんなわけでとあるセッションの日。レシピを一緒に作成することにしました。
事前にお魚を購入しておいていただきます。そしてセッションの日に目の前で調理していただくことにしました。
とは言え、オンライン相談室ですから、私たちの距離は何100キロも離れていますので、スマホのカメラをご自身に向けていただき、料理風景を私が見られるようにしてもらいます。
そしていざ調理♪
私は、画面越しにAさんの料理風景を見ながら、パソコンでその様子をメモしていきます。私が入力している文字は、Aさんのスマホにリアルタイムで映し出されるように設定しました。
そして料理手順・調味料の量などを、Aさんが調理するはじから記録・記録・記録…。
Aさんは私の打つ文章を確認・確認・確認…。
幸いAさんは文字の理解が非常に良かったので、私が打っている文をよく理解され、「修正して欲しい」という部分を指摘していただきながら、セッション内になんとか完成♪
後日談
その時は完成したレシピのWordデータを息子さんにお送りし、印刷やお孫さんへの受け渡しをお願いする形となりました。時間がギリギリだったのと、Aさんがそれをするのは少し難しそうだったからです。
レシピを受け取ったお孫さんは、家庭科の授業でもきちんとAさんのレシピを提出。そして後日ご家庭で作ってみたようです。
母親になると言われる「母の味」。そういうものがこうして引き継がれていくというのを目の当たりにして、なんだか温かみを感じた、そんな経験となりました。
一般的な言語訓練も楽しいですが、たまにはこんなことも楽しいものですね。
【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。
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