私は言語聴覚士なので、嚥下障害の方と多く接しています。そんな私ですが、一度、嚥下障害になったことがあります。今日はその話を・・・
私、嚥下障害になっちゃった⁉︎
1年半ほど前に、ちょっとした手術をしました。甲状腺の病気があったので全摘出することになったのです。
手術自体は成功で、その後体調不良もなく、傷口も今は全くわからないほど綺麗に手術してもらえました。しかし、全身麻酔でしたので、手術の際に気管挿管をしました。更に、手術は甲状腺、つまり喉のあたりですので、そこにある神経にわずかながら影響を与えます。そこで影響を受けた神経・・・それが、反回神経(はんかいしんけい)という神経でした。
反回神経ってなに⁉︎
反回神経とは喉にある声帯を動かすための神経です。今回手術の影響で声帯の動きが悪くなったのです。声帯・・・それは『咳』をするために必要な部位です。
つまり、気管挿管の影響で喉が腫れ、ゴックンがしにくくなる→ついでにゴックンも弱くなる→むせやすくなる→でも咳をするための声帯に麻痺がある→むせられない・・・という事態になったのです。
せっかく手術が終わったのに
全身麻酔から目が覚めて、「あ、まずい。嚥下できない・・・」とすぐに気付きました。唾液も飲めないのでティッシュで拭い、様子を見ます。朝食が出されましたが、嚥下できないので当然食べられません。でも他のベッドからは味噌汁をすする音が・・・。え?私だけ?嚥下障害になったの、私だけ?・・・(・_・;
食後、看護師さんが来られて服薬を促されるのですが、飲めるわけないのでそうお伝えしたものの、「服薬確認がいるので…」と。私も「喉がこーゆー状態で嚥下反射でないので無理です」と説明して必死に抵抗(笑)とりあえず薬は、水は使わず舌で溶かして飲みました。
自主訓練はしんどいよ
全く水分を摂れなくなったため、喉はカラカラ、息切れゼーゼー。なんとかしなければ!と、先生の許可のもと、近くのコンビニで飲めそうなものを物色しました。ゼリーや飲むヨーグルトなど、言語聴覚士としての知識を活用して、飲めるものチョイス。
更に喉頭ファイバー(鼻からの内視鏡)で、声帯の動きを確認して、首の角度をどのくらい回旋・前屈すべきかを分析。自主トレも傷口に影響しないようにこっそりやりつつ…(^-^;
そんなこんなで何とか入院を乗り切ったわけです。しかし、声にも異常があったのですぐに言語聴覚士として復帰できるわけもなく、2週間ほど休業を延長し、自主トレの末復帰できました。今は全く後遺症もありません。
嚥下障害になって思うこと
この経験の中で私が思ったこと。
嚥下障害当事者は、本気で怖い‼︎
食べ物、飲み物も飲めないのは怖いんですが、それ以上に、唾液すら飲めずにむせると言うのは、これ以上ない恐怖でした。
嚥下障害をお持ちの方の中には、むせることが多すぎて、周りもそれに慣れてしまうことがしばしばあります。
しかし、経験者として言いますが、全く慣れません。恐怖です。辛いです。私は治ったので良かったですが、これが慢性疾患などでは、長く恐怖にさらされることになります。
嚥下障害への対応は、早くしないといけない。苦痛を少しでも取り除かないといけない。そんな思いがますます強くなった…そんな体験談です。
あれ以来、当事者の気持ちが少しわかるようになったので、それはそれで良い経験だったと思います。
・・・とは言えもう経験したくない程しんどいです。
いやー・・・自主訓練できて良かった。
【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。
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