先日、先輩STさんから「舌小帯を切る切らないについてどう思いますか?」と言った質問を受けました。今日はこの舌小帯についてのお話。
舌小帯って何?
舌小帯ってご存知ですか?これは「ぜっしょうたい」と読みます。舌のピッとめくると裏側の中央にまっすぐ縦についているスジのことです。このスジの長さや太さには個人差があり、これが特に短い場合を「舌小帯短縮症」と言います。短縮症の方の中には哺乳・発音などへの影響が出ることがあり、幼少の頃に切る手術をする場合があるのです。
小帯は他にも
小帯として「切る」「切らない」の判断となるものにもうひとつ、「上唇小帯」と言うものがあります。これも上唇をペロンとめくると、中央に縦にスッとあるスジです。これも極端に太く短いなどの場合があり、それは「上唇小帯異常」と呼ばれます
この上唇小帯異常では、哺乳の影響が出たり、前歯と小帯の位置関係から、歯磨きが難しくなり虫歯になりやすいなどの影響が出ることがあります。
小帯が短いから切りましょう
いずれの小帯も最近は切ることは少ないのかもしれませんが、地域差や、医師の方針によってこの小帯を「切る」「切らない」の治療方針が異なる場合があります。いずれにしても主治医の先生と相談しながら、治療方針を決めることになります。
この「切る」と言う外科治療がどのようなものかと言うと、以下の通りです。
手術は局所麻酔をしたうえでハサミなどを用いて舌小帯を切ります.切る部分は粘膜なので,切った後に縮んでまた短縮してしまうことがありますので,短縮を 予防するために特殊な形成術を加えることもあります.程度の強い舌小帯短縮症は舌口腔底癒着症のことがあり,舌尖下面の前舌腺,口腔底の舌下腺や舌下腺開 口部を傷つけないよう注意が必要です.剥離後の粘膜欠損が大きく局所で十分被覆できないときは,遊離粘膜移植や粘膜弁移植をすることもあります(日本小児外科学会HPより引用)
小さいスジですが、切るって物々しいんだな^^; なんて思えますね。
で、切ったほうがいいの?
さて、切るべきか切らざるべきか、をここで論じるのはナンセンス。と言うか不可能なので、論じません。ただ、この判断材料として忘れてはいけないことをひとつだけお伝えしようと思います。
「なぜ切るんですか?」
と言うことです。
「切るか切らないか」と言う話題が出た段階で、何かしら生活に問題が出ているからです。それが哺乳なのか食事なのか発音なのか虫歯なのか・・・。まずそこの問題を明確にする必要性があります。
そう、この「問題点を明確にする」これが最も重要です。
問題点を明確にする
この、「問題点を明確にする」って実は結構難しいんです。私が問題解決をするときに必ずしている3段階の思考があります。
「問題点はA」→「Aを引き起こす原因はB」→「Bの解決策はC」
この3段階。え?普通なことですか?でもこれ、結構難しいんです。
例えば「太郎くんが石につまずいて転んだ」とします。これの問題点はなんでしょうか?こう聞くと
- 太郎くんの運動神経が悪い?
- 太郎くんが注意散漫?
- そこに石があること?
なんて答えが返ってくるかもしれません。実はこれは不正解。なぜなら、もし「太郎くんが注意散漫」と言うことが問題点(A)であるならば、その原因(B)はなんでしょうか?注意障害とか?もしその注意障害の解決策(C)ってあるんでしょうか?たとえあったとして、注意障害が解消したら、石につまずいていても転ばなかったんですかね?そんなことはないですね。つまり、解決になっていないんです。
問題点を抽出する方法はシンプル
問題点はあくまで「事実」のみ。
つまり、太郎くんの例で言うと「転んだ」と言う事実のみを指します。文字に書いてあるそのままの中かから、事実・事象を問題点とするのです。
そしてその問題点が明確になって、ようやく原因を検討できるのです。今回で言うと「石があったから」「石に気がつかなかったから」などが原因ですね。
こうして問題点は事実、その事実を元に原因を探ると言う段階を踏むと、解決策を導くことができます。
「石を避ける」「石に注意して歩けばいい」などの解決策に繋がるんです。
未来永劫ずっと太郎くんが転ばない、と言うことではなく、あくまで今回の「転んだ」と言う事実に対して、明確な解決策にたどり着けました。
で、舌小帯の話
完全に話が逸れました。しかし治療方針を決める上で、この「問題点→原因→解決策」の順で思考することって、非常に重要です。
この舌小帯短縮症の外科的治療をする・しないの問題点を見直してみましょう。
そもそも問題点はなんですか?
舌小帯が短いこと?
…いいえ、違いますね。短くても日常生活に支障がなければ、それは問題点ではありません。「発音が悪い」「哺乳が悪い」などの“事実”と結びつく“問題点”があるはずです。
例えば「哺乳が悪い」と言う問題点があったとします。
でしたら、今度はその“原因”を考えてみましょう。
その原因が“舌小帯短縮症”である、と言うことであればそれは治療すべきです。
しかし、他の原因の可能性があるならば、外科治療をしても「解決にならないかも」と言う点を理解したほうが良いでしょう。
治療をする・しないの判断
舌小帯短縮症の例もそうですが、こういった判断をするときって、『問題点』と『原因』が曖昧になります。
「短いなら切ろう」
それもそうなんですが、「短い」ことが『問題』なんでしょうか?「短い」ことが『原因』であるならば、解決したほうがいいですが、そうではないならちょっと考え直すほうがいいかな?と思います。
問題点は事実・事象のみ。
ここに尽きるのです。
だから、治療のする・しないも『問題点』がなんなのか、『原因』とごちゃ混ぜになっていないか、などを見直してみることをお勧めします。
ちなみに私のごく身近な友人は、お子さんの舌小帯と上唇小帯を切りました。後になって聞いたのですが、乳児のときですね。体重が増えないことを悩んでいたようです。結果、体重は増えませんでした。体重が増えないことの原因は「舌小帯が短いこと」ではなかったと言うことですね。それがわかっただけで良い、と言う考え方もあるので、治療したことがダメと言う訳ではありません。ただ、「体重が増えない」と言う問題点であるならば、他のアプローチは検討したのかな?と言う疑問が湧いたのは本音です。
まとめ
舌小帯にしろなんにしろ、治療方針を悩むことは多いと思います。それは治療に限らず日常生活どんなこともですね。
その中でこの「問題点」と「原因」をきちんと区別して考えると言うことを実践できれば、本当に困っていることに対しての解決策は見つかってくるものではないでしょうか?
例えば「歩けない」と言う主訴に対して「歩行訓練」をします。これも必要です。けれど「歩けない」と言うことが問題点なのか?と言う点に立ち返って見ましょう。「歩けないから仕事に行けない」ことが事実ならば、問題点は「仕事に行けないこと」です。その原因が「歩けないから」ならば、歩行訓練は大事です。しかし、「仕事に行けないこと」の原因は「歩けないこと」だけでしょうか?環境面だったり、耐久性だったり、会社の受け入れ体制だったり・・・色々ありますよね?きっと。だったら「歩行訓練」と言う1つの解決策だけではなく、様々な解決策があでしょうし、その中でもよりスピーディに解決できることって何かな?と考えながらプランを立てるのって、面白いと思っています。
舌小帯短縮症とはあまり関係ない話かもしれませんが、こんな考え方で私は日々の色々なリハプランなども立てています。
これまでのびぃどろ講座とだいぶ趣向が違いますが、参考にしていただけましたでしょうか?
【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。
最近のコメント