先日、『胃ろうでも食べたい』というご利用者様(以下Aさん)の希望を叶えるべく、通所施設へ『個人』に対する『戸別訪問』をしています、と言う記事を書きました。(過去記事はこちら⇒☆)
今日はその続きについてのお話です。
事の発端
そもそも、なぜ胃ろうの方へ経口摂取を促す支援をすることになったのか・・・というと、答えは簡単。
「食べたい」とおっしゃるのです
いや、当たり前です。「胃ろうになりました、食べるのやめましょう」と言われても、この時代どこでも食べ物が転がっています。ご家族が美味しいものを食べている。通所へ行けば美味しい昼ごはんの香りが漂ってくる。テレビをつければ美味しそうな映像が流れる。ラジオだって雑誌だって、どこ見ても食べ物、食べ物、食べ物・・・。我慢しろという方が無理です。
わたしたちだって「ダイエット、ダイエット」とか言いながら、美味しいもの我慢できないでいるじゃないですか。我慢できなくて当然です。
ですからAさんが食べたいとおっしゃるのも当然の流れでした。そしてたまたま、それが許される環境が整いそうだったので、デイサービスでも食べさせてみよう、ということになったのです。
どうやって食べさせるか?
とはいえ、私がその施設へ訪問する月数回の、わずかな時間しか食事は提供されません。それ以外の利用日は、胃ろうへの注入のみ。そのわずかな時間を、どうやって拡大するか。これが最大の問題でした。
そもそも提供される食事が『普通食』です。それ以外の形態は、Aさんに不適切でした。ムース食や軟菜食などがあれば違いますが、それは提供できる調理場環境がありません。(※施設の設備が悪いのではなく、衛生基準等の問題で施設としては不可抗力です)
この普通食をどうやって食べさせるのか、まずはこれを明確にしていく必要があります。
食べさせるまでの道のり
わたしがAさんに普通食を食べさせるまでの道のりは
- 食べられるものの選別
- 選別された食べ物の加工
- 実食
という流れになります
1.食べられるものの選別
毎月月初めにでる献立表を確認し、どのように調理されるかを、直接調理師の方へ確認しました。この際に特別な調理を依頼することは一切せず、あくまで食べられないものの除去のみお願いしました(アレルギー除去食などと同じレベル)。
2.選別された食べ物の加工
提供された食事の中で、すでにハイリスクなものは除去していただきましたが、それでもまだ全てが普通食。今度はそれを、マッシャーやフードグラインダー、すり鉢、とろみ剤などを駆使して、Aさんの能力に合わせて加工します。
3.実食
そしていよいよ食事介助。姿勢、スプーンの使い方、見るべきポイント、食べ方の癖、とろみの強さなど、数名のスタッフの方にお伝えしながら食べさせました。
変化
初めは、胃ろうの方に食事を食べさせるということ自体に、なんとなく抵抗を感じる方がいらしたと思います。しかし、「あれ?結構食べられる?」という気づきも出始めます。私が訪問しない日でも、施設職員さんが食べさせてくれるようになるのではないか・・・?そんな期待も膨らみ始めます。
(※もちろんAさんの嚥下能力が高いからです。胃ろうの方どなたにでもできることでは決してありません)
そして少しずつ、施設のスタッフさんの中でも理解が拡がりました。食事形態も、調理師さんが可能な範囲で配慮してくださったり、スタッフさんが質問してくださったり。
毎回わたしがお伝えしていたことは、ごくシンプル
「リスクを感じたら中断して良いんです。胃ろうから栄養はとれます。全量食べることが目的ではないんです。だから、潔く今日はここまでしか食べない、と決断していいんです」
これが胃ろうの強みです。
それを聞いたスタッフさんが、徐々に安心し、食べさせることに前むきになってくださいました。
断っていいですよ
とはいえ、施設さんへの負担が大きくなることが私のいちばんの心配事。もちろん私が行けない日に、スタッフさんが食事介助をしてくれれば、そんなに嬉しいことはありません。けれど、現実的にリスクを負ってまでする必要はない。それができる施設へ変更すれば?という思いが、施設さんにあってもおかしくありません。わたしにはその本音はわかりません。
正直、施設さんへ負担をかけられない。そう思いました。
そこで担当者会議を開催。断っていただくことも覚悟しながら、今後の方針を決定することになりました。
やらせてください
そこで所長さんの口から、こんな言葉が。
「長岡さんにはご迷惑をおかけしますが、やらせてください」
・・・・え?
わたしの脳内フリーズ(笑)やっていただけるのですか!?
驚き半分、嬉しさ半分でちょっとフリーズしてしまいました。
職員さんの負担を思えば、所長さんのご決断は決して軽いものではありません。もちろん私も全力でサポートします。けれど、その言葉が聞けると思っておらず、大変ありがたい気持ちとなりました。
楽しく食べよう
無事に、胃ろうはあるけれど、念願の食事をとれるようになったAさん。
繰り返しになりますが、胃ろうがあるからこそ栄養は胃ろうにお任せできるので、リスクを冒してまで全量摂取することはなく、食べたいもの・安全なものだけ食べることができます。
『胃ろうがあるから一切食べない』ではなく
『胃ろうがあるから安心して食べられる』にしたい
よく嚥下訓練の目標として掲げられる「楽しみレベルの摂食」。まさにこれができるのではないでしょうか?
そんなこんなで、現在食事介助の引継ぎ中♪( ´艸`)
マニュアルも動画でしっかり作成中♪
Aさんのもとに、素敵な時間がとどきますように。
注意:これはあくまでAさんの嚥下能力に環境などが適合したためできている支援です。全ての胃ろうの方が同様の支援が受けられることを促すものではありません。ご了承ください。
【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。
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