【びぃどろ講座】スプーンを使えるようになるまで

動物の中で、ここまでたくさんの道具を使いこなす生き物は人間だけですね。食べるときに使う道具、料理の時に使う道具、書く道具、描く道具、切る道具、家中どこを見ても道具だらけ。

便利な道具に助けられることもありますが、発達に不安を抱えるお子さんの場合、鉛筆やスプーンなどの基本的な道具の使い方を獲得するのにも時間がかかります。こどもが箸やスプーンを使えるようになるには、どんな過程が必要なんでしょうか?練習用の箸を使った方がいいですか?ご両親の不安は尽きません。いろんな質問が私の元にも届きます。

今日は食具についてのお話です

食具ってなに?

食具とは、スプーンやフォーク、箸のことを言います。カトラリーとも言いますね。食事の時に使うものですから、毎日のこと。早く使えるようになってほしい、という思いもよく耳にします。

この食具、いくつも種類がありますが、一般的にはスプーン⇒フォーク⇒箸の順で使えるようになっていきます。

スプーンを使うまでの道のり

まずは一番基本的なスプーンの使いかたを見てみましょう。

この図を見てわかるように、スプーンなどの食具の操作は、スプーンに対して手先の向きが徐々に変化することで正しい持ち方にシフトしていくのです。更に言うと、手先の動きだけではなく、「自分の手の位置に対して、どこに口があるか」などの空間認識の能力であったり、スプーンに乗っている物の量・質に合わせた動きをするための視覚での判断能力であったり、知的面の様々な発達が複雑に絡み合って使えるようになるのです。

ここでひとつ言えるのは
「スプーンを3本指握りができない場合は、箸を使うことはできない」
ということです。

当たり前と言えば当たり前ですが、1本で操作できるスプーンやフォーク、鉛筆などに比べて、2本を組み合わせて使う箸の方が複雑に決まっています。

ですから、焦って箸の練習をするのではなく、スプーンや鉛筆などの1本で操作するものをまずはじっくり丁寧に練習しましょう。

と言うのも、やはり子どもは学習能力が高く、誤った持ち方でもなんとか使えてしまうものです。しかし子どもによっては、その誤った使いかたが修正できず、将来の姿勢や器用さなどへ影響を及ぼす可能性があるのです。

子どもの発達支援において気を付けなければならないのが、この「誤学習」。誤学習をしてしまうと、年齢によっては軌道修正が難しくなる場合も多いため、なるべくそれを助長しないよう、配慮していく必要があります。

練習箸っていいの?

とはいえ、箸に興味があるのにまったくさせないのも悩ましいですね。そこでよく言われるのが「練習箸・矯正箸ってどうですか?」というもの。

最近はベビー用品店にも、100円ショップにも、子ども用の練習箸が売っています。これってどうですか?なんて質問も多く受けます。これらの箸の使用について説明します。

練習箸と箸は別物

基本的に練習用箸を使っても、箸は箸で練習をしないといけないものと考えてください。箸を正しく持てない理由があるならば、そこが解消されないと使えないことには変わりません。

また練習箸を使うための関節・筋の動きと、箸を使うための動きは若干異なります。そういう意味でも、使い方の違うものであると考えたほうがいいです。

では使わない方がいいの?

とはいえ、練習箸は全く必要ないかと言えばそうでもありません。練習箸の一番大きな役割は…

「箸を使う経験をする」こと

この点はとても重要です。とくに手先の発達に不安のあるお子さんの場合、周りが箸を使っているのに、いつまでも使えないことを気にすることがあります。成功体験や周囲との比較による自尊心を保つ、自信をつけるなどの様々な効果もあるため、練習箸を使うことが良い効果をもたらす場合も多くあります。

つまりは箸を練習するためではなく、箸が使える日までつなぐためのものとしての役割ですね。

そういう視点で見ると、箸選びの目も変わってくるかもしれません。

【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。