【戸別訪問】嚥下食つくっちゃお!

戸別訪問のご利用者様で、脳梗塞後遺症とパーキンソン症候群をお持ちの方がいらっしゃいます。要介護4で、奥様が積極的に介助をしながら、日常生活を送っていらっしゃいます。

嚥下障害が比較的重度で、食事の度にむせながらも、なんとか食べていました。奥様がお料理に対して熱心で、とろみ剤やゲル化剤などをうまく活用しながら、嚥下食の料理を積極的にされていました。

私の介入の目的は何かというと

「その嚥下能力に合った食事が作れるようになる」

訪問看護ステーションからのリハや、訪問リハビリテーション、管理栄養士による訪問指導(居宅管理指導料)などのサービスを使えば、医療保険・介護保険内で嚥下の評価や調理指導を行うことはできます。しかし、「その嚥下能力に合った食事を作る」という視点だと、嚥下機能評価と調理指導の両方ができる必要性があります。STで調理指導をすることはやや難しく、管理栄養士が嚥下機能を評価することも難しい。

そこで私の介入となりました。

私自身、調理師や栄養士の資格は持っておりません。ただし、「自宅でつくる嚥下食」に関しては、長く訪問看護ステーションに勤務する中で、在宅リハビリテーションの一環として積極的に調理指導を行ってきました。各家庭にある調理器具や、調理者の料理レベルに合った指導をすることが、ひとつの仕事になっています。

今回の目標は、食事のムース食化。

このご利用者さんとお会いする前、偶然主治医の先生から、お粥ミキサーの作り方について相談されており、お粥専用のゲル化剤のご案内をしたことがありました。わたしの訪問開始前から、この主治医の先生のご理解と勧めもあり、お粥専用のゲル化剤は既に導入されており、粥ミキサーはとても上手に作られている方でした。

またお茶にもとろみ剤が必要な方であり、一般的なとろみ剤もすでに使用していました。

この時点で①お茶用②お粥用、の2種類のとろみ剤が導入されていたことになります。ここにおかず用のとろみ剤(ゲル化剤)を追加で導入するとなると、3種類の粉を使い分ける必要性が出てきます。

奥様が3種類を使い分けできるか。
それぞれを購入する手間は大丈夫か。
金銭的な負担は大丈夫か。
衛生面などの保存環境は良好か。
こういった『現実』の中に、食事形態の『理想』を落とし込む必要があるのです。

ここで私の提案は2つ。
①お茶用・お粥用・おかず用の3種類のとろみ剤(ゲル化剤)を使う
②お粥用とその他、の2種類のとろみ剤(ゲル化剤)を使う

まずは、おかず用のゲル化剤を1種類決定します。これは、性質や容量などから、選択肢も少ないためすぐに決定しました。そして、そのゲル化剤でお茶もとろみが付けられれば、お茶用のとろみ剤を終了し、2種類の使用でいけると考えたのです。

結果としては、3種類導入することで決着しました。

おかず用のゲル化剤で、お茶もとろみが付けられるのですが、少し手間がかかります。この手間をかけるなら3種類あって使い分ける方が楽、と奥様が言われたからです。

使用するとろみ剤の種類が決定したため、あとはおかずの調理指導です。
基本的なレシピで一度作り、試食までは訪問内で行えます。その後、どんな形態を目指すのかをきちんと理解していただきいくつかレシピをお渡しします。それを次回訪問までに作っていただきます。必要に応じて、調理したものを写真や動画におさめていただき確認します。

カボチャをゲル化剤で固めてみた

徐々に奥様が調理になれると、あとはアレンジが勝手に生まれていくものです。そうなれば定期的な指導は要らなくなります。本人さんの嚥下機能を把握し、どのレベルであれば食べられる、ということさえ理解できれば応用はきくのです。

おかげで、いろいろな食事のムース食化が図れるようになり、食べられる食事の幅がグンと広がりました。よかった!

この方の場合、調理者が主婦である奥様だったからスムーズです。しかし、これがご主人だとなかなかそうもいかないものです。そうなるとお惣菜やコンビニの食事などを活用した指導になっていきます。

嚥下障害を抱えると、3食の食事の準備は大変です。この負担を最小限にし、楽しい食卓を囲んでほしい。その為には、嚥下機能から考えられる『理想の食事』を、生活上で『提供できる食事』へと落とし込んでいかなければならないのです。

そんな支援が成功すると、また、家族だんらんの時間が増えたなと、うれしくなります。

やっぱりだんらんっていいですね。

【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。