【びぃどろ日記】嚥下障害者、身の程を知れ

先日とある場面で、嚥下障害であってもとろみをつけていろんな飲み物(嗜好品)を楽しむという話題の中で、「“身の程”という言葉が大切です」という御意見をいただきました。

嚥下障害者が飲み物を楽しみたいということは「身の程」をわきまえていないことになるんでしょうか?

今日はこの話。

「飲み物」を飲むということ

飲み物は好きですか?私は大好きです。もちろん人は飲み物を飲まないと生きていけないので、誰だって何かしら毎日飲むのだと思うのですが、私は「飲み物」が大好きです。

大学時代に一般教養系のある授業で、教授がふと「コーヒー」についての話をしました。コレは授業とは全く関係ない余談だったのですが、その科目の試験が「講義で触れた内容のうち印象に残っていることについて自由に述べよ」というもの。そこで私は飲み物について論じて、合格したことがありました。良いか悪いかは別として、それくらい飲み物が好きなんです。

ちなみに自宅には緑茶や紅茶、コーヒーなどどの家庭でもありそうな飲み物以外に、梅昆布茶、中国茶、ハーブティー、ハブ茶、そば茶、ココア、抹茶など、無数の飲み物があります。そして、その日の気分で飲み物をえらんで楽しむ毎日を送っています。

ちなみに友人もソレを知っているので、私への手土産が飲み物になることもしばしば。ありがたい限りですね。

お酒類も飲めますし、割と強い方なんですが、如何せんあまり好きではないので、家庭で飲むことはほとんどありません。

苦手な飲み物はジュース類。甘いのが苦手なので、ほとんど飲みません。更に言うと炭酸ジュースは苦手です。口の中が痛いというか辛い感じが好きではなく、コーラやサイダーなどは「甘いのに辛い」と言って殆ど飲みません。

何にしたって、ほら、飲み物を飲むって生活の一部であり、生きる上で避けて通れないものですよね?

では、飲めなくなったらどうなるって思いますか?

私の嚥下障害体験

以前から何度か記事にしていますが(過去記事→)、わたしはおよそ2年前に嚥下障害を患っています。一時的なものでしたから、今では何の問題もありませんが、その時の体験というものは今思い出しても「恐怖」しかありません。

そう「恐怖」なんですね。

なぜ嚥下障害になったかと言うと、喉にある甲状腺の全摘術を受けたため。全身麻酔で気管挿管をし、その影響を受けたこと、更に甲状腺を取る際に嚥下に関わる神経(反回神経)に影響を受けたことが考えられます。

手術から目覚めたとき、唾液すら飲めないことに気が付き愕然としている中、服薬を促されました。「飲めません」と答えても「服薬確認があるので、目の前で飲んでいただかないと」と言われるし、食事は普通食が提供されます。

試しに飲んでみると、嚥下反射が出ない。出ても弱いので、とにかくむせる。しかし咳をするために必要な反回神経に麻痺が出ているので咳がでない。つまり、飲み物がダイレクトに気管に入るんです。それはそれは苦しい。

「とろみ剤をください」

看護師さんに訴えましたが、なんと取り扱いのない病院でした。甲状腺の手術専門病院で、手術したらすぐに退院となるため、甲状腺治療以外の資材がまったくない病院だったのです。

言語聴覚士としてすでに10年以上。セミナーとかやってる手前、喉のメカニズムは熟知しているわけですから、「このままでは死ぬ」という、恐怖との戦いが始まったのです。

とろみ剤をください

病院にとろみ剤をお願いしましたが、ありません。味噌汁に水溶き片栗粉をお願いしましたが、別の施設での調理であり、院内での対応は不可。

時は1月の雪の降る季節。雪が降る中、昨日手術終えたばかりの私が歩いて買いに行ける範囲は限られます。近隣の薬局に電話しましたが、とろみ剤の取り扱いがありません。そもそも反回神経は声を作る場所でもあるので、ここに麻痺があると声が出ません。薬局への電話も必死。それはそれは大変でした。

しかし、喉はカラカラ、からだもフラフラ。このままでは脱水で倒れてしまう。看護師さんに訴えても「頑張って食べてくださいね」と言われます。食べられるものなら食べているんです。嚥下反射が出ないから食べられないんです!!!

ちなみに唾液も飲めなかったので、すべてティッシュで拭き取っていました。半日で1箱使い切る状態。唾液もどんどん出ていくし、水分は全く飲めない。ご飯もしんどくて食べられない。だんだんと朦朧としてきました。

私は夫も言語聴覚士なので、とろみ剤を持ってきてもらおうと思ったのですが、なんとこのタイミングで子供がインフルエンザに罹ってしまい、だれもお見舞いに来られない事態となりました。県外の病院だったので友人にも頼めない状態だったんですね。

さぁどうする!?

とろみの飲み物を求めて

ちょうどその病院はすぐとなりにコンビニがありました。そのため看護師さんに「コンビニで飲み物を買ってきます」と話して外出許可をなんとかもらいました。

手術翌日。脱水ギリギリ。大雪の季節。フラフラになりながらコンビニに向かいました。

私の言語聴覚士としての知識を基に、ヨーグルト、プリン、飲むヨーグルトなど、とろみの付いたものをひたすら物色し、購入しました。

病院に戻り、ヨーグルトをパクリ。あぁ…美味しい。やっと食べられた。やっと(´;ω;`)

身体に水分がはいることの喜びでもあります。

自主トレの開始

術後で術創をきれいにするために、傷口にあまり刺激を与えないように嚥下訓練を開始しました。このあたりは専門職だったので良かったです。

声もなかなか出なかったのでしばらく仕事復帰はおあずけ。まずは嚥下がスムーズにできること、声が負担なく出せることを目指しました。

退院後はすぐにとろみ剤が用意できたこともあり、食事はとろみ食を作り、適宜自分の能力の回復に併せて食事形態を変えていきました。

ちなみに手術後数日で、普通食が食べられるまでに回復はしました。あくまで水分だけとろみがいる状態です。ですから食事は普通食で、汁物や汁気のあるものにとろみをつける状態でした。

好きなものを飲みたい

さて、冒頭の“身の程”のお話。

この状態で私が「嚥下障害で飲み物はむせるんだから、飲み物は止めよう。ご飯は普通食なんだから、飲み物はプリンかヨーグルトで補給しよう」と思う必要があるのでしょうか?

私はそれは考えられませんでした。

「飲めない身体になったから、諦めろ」

それは普通のことなんでしょうか?

上記にある通り、私は飲み物が好きです。1日中いろんな飲み物を飲みます。今日も朝起きてお水を飲み、朝食で緑茶を飲み、掃除が終わったら紅茶を淹れ、今はコーヒーを飲んでいます。これが毎日です。それを諦めるなんて、私にはできません。

「とろみを付けてまで飲みたくない」という気持ちは尊重します。けれど、「とろみを付けてまで飲むな」という気持ちにはなれません。そんな事言われたら、私はあの手術を非常に後悔したと思います。

私は実際、とろみを付けて飲んでいました。紅茶もコーヒーも。そして自分の回復に合わせて、とろみの濃度もコントロールして、徐々に薄くしていきました。

とろみはつけすぎると美味しくありません。これは事実です。だからこそ、適量を付ける必要があります。この適量を判断することが難しいのですが、実際はとろみを付けすぎていることが多いのです。だから美味しくない。

私は専門職だったので、自分で適量を見定めることができ、「美味しく」嗜好品を楽しむことができました。

私達専門職の介入によって、ただの飲食するという行為が「美味しく楽しむ」という行為になるのであれば、このとろみ剤の指導というものには、とても価値があると思うのです。

私のしている指導は「胃瘻でも食べろ」「嚥下障害でも飲め」と言っているわけではありません。胃瘻だろうが嚥下障害だろうが「楽しみたい」という、人間として普通の欲求を、満たす手伝いがしたい。そこにリスクがあるなら、なおのこと家族に丸投げするのではなく、専門職として「ここまでならリスクは低い」というラインをお伝えする。それが専門職の仕事なのです。

嚥下障害になったからこそわかる、食事支援の価値。

皆さんにとって、「食」ってなんでしょうか?考えていただくきっかけになればと思います。

【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。



2 件のコメント

  • ブログを読ませていただきました。
    さまざまな事情で嚥下障害になる方がいますが、嚥下障害に対する理解もなく、また嚥下障害を治療をする病院も少なく、そこで働くSTさんも少ない状況であるというのは常に感じています。
    田舎にある小さなリハビリテーションクリニック(リハ職5名(うちST1名))で事務として働いていますが、嚥下障害でで困ってクリニックに来られる方もいます。そのような方がSTの訓練を始めてからよく聞く言葉が「もっと早くここに来ればよかった」です。
    医療に関するインフラの充実していない秋田県ですが、なんとか頑張っていきたいなと思う今日この頃です。

    • コメントありがとうございます。
      私が入院した病院は大都市にある病院でした。
      けれど、病院の特徴から、嚥下への理解が少なく、非常に怖い思いをしたのが正直なところです。
      STだったら何でもできる、というわけではありませんが、「STを知っていたら変わっていたかも」ということが、少しでも減っていけばいいなと感じております。
      病院の大小ではなく、そこに携わる方々の働き方だと思います。素晴らしい支援を、今後も届けてくださいね。

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