【びぃどろ講座】口の発達の見極め方

幼児の食支援をするときに、私がとても大切にしているポイントがあります。それが唇の発達。今日はそのお話し。

唇の周りの筋肉

私たちの唇の周りはたくさんの筋肉に囲まれています。口の周りを輪っか状に走行している筋肉は「口輪筋」です。唇の筋肉というと、それが一番有名なのですが、そのほかにも頬筋、大頬骨筋、オトガイ筋、顎舌骨筋など、たくさんの筋肉が、顔の動きを作っています。

唇ってどう動く?

唇って、みなさんどんな動きをしていると思いますか?開いたり閉じたり、すぼませたり・・・。けれど実はとっても複雑な動きをしているんですね。

例えば下唇にご飯粒がついてしまったとき、みなさんこんな風にご飯粒食べたりしませんか?

下唇を巻き込んでご飯粒をペロリ

こうやって下唇だけ巻き込んで動かしたり

たこ焼きを食べる人のイラスト(男性)

こうやって片方の頬に食べ物を入れてもぐもぐと噛むこともありますね。

「あいうえお」と言う時も全て違う唇の動きをしていることが分かります。つまり唇の動きってとっても複雑なんですね。

しかし私たちは赤ちゃんの時からこんな複雑な動きができるわけではありません。これは哺乳などを通した唇の練習から始まって、たくさんの経験を経て培っていく動きです。では、どうやって育つんでしょうか?

一番初め

赤ちゃんが生まれて一番初めにすることは、「大声で泣く」「おっぱいを飲む」です。声を出すために大きな口を開けて泣きます。そして顔に乳首が触れたら、パクパクと口を動かしおっぱいを自然に探します。そうして一生懸命飲むのです。

この時の唇の動きは「開けること」です。あれ?おっぱい飲む時って“すぼめるんじゃないの?”と思うかもしれませんが、実はこの時期おっぱいや哺乳瓶をくわえるときは、まだ唇はすぼめていません。大きくまん丸に開けているんですね。口を大きく開けてしっかりとおっぱいをくわえるんです。くわえると言うより吸盤が吸い付くイメージに近いかもしれません。

ですから唇の動きで一番最初にできるようになるものは「開けるー閉める」です。

二番目にできること

そして徐々に口を開けることが上手になり、指しゃぶり・玩具舐めなど、たくさんの口の動きを経験することで、徐々に様々な筋肉の使い方を学びます。

6ヶ月ごろになると、離乳食が始まり、いよいよ「食べる」と言う動作の練習を始めます。

そうするとこれまでの母乳やミルクでは必要のなかった動きが必要となります。

それは「送り込み」です。

これまでは、母乳・ミルクは液体であり、ある程度流れで喉に移動していまいしたが、それが「食べ物」になると、舌を巧みに使って喉に向かって送り込まなければいけなくなります。

そのときに見られる口の動き、それが「両口角の引き」です。

唇の両口角が同時に後ろに向かって引き揚げられるのです。

まだ舌で食べ物を後ろに送り込むことが難しいので、唇などをこうして動かしながら口全体を使って、食べ物を後方へ送り込むのです。

三番目にできること

そうして送り込み動作が徐々にできるようになると、舌をさらに巧みにつかいながら、歯の上に食べ物を置いて、咀嚼をするようになります。咀嚼が完成するまでには臼歯の萌出も影響するため、何年もかかりますが、唇や舌が咀嚼が臼歯の萌出までの間に一生懸命顎を動かす練習をするわけです。

そうしてどんな動きができるようになるかと言うと「ねじれ」の動きです。

口角が左右バラバラに動き、唇全体がねじれるように動くのです。そうすることで、口の中の食べ物が左右に動き、歯ですりつぶされながら唾液とまざり、ゴックンと飲み込みやすい形へと変化させることができるようになるのです。

発達は飛び越し禁止

この、「開けるー閉める」からスタートし、「両口角の引き」から「両口角のねじれ」へと変化していく順番は、前後することはありません。かならずひとつずつの順番で獲得していきます。

ですから、「今」どの動きをしているのかを正確に知ることが重要です。そして、この3段階がいわゆる「離乳食」の「初期」「中期」「後期」の順とリンクしていきます。ですから、逆を言えば、各段階の動きがまだできない場合は、無理に食事形態をアップさせてはいけません。特に基礎疾患のあるお子さんの場合は、絶対に無理なステップアップはやめましょう。

もちろん、この口角の動きだけで食事の評価をすることはできません。けれどこの動きは外から見ても分かりやすいものです。

一度お子さんの口の動きと食事形態がマッチしているか、見てみてはいかがでしょうか?

【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。