介護食・嚥下食として有名な食事のひとつに『刻み食』というものがあります。
年を重ねるとともに、飲み込みがしにくくなった、噛むのが大変、飲み物でむせる、などの問題が出始めると、すこし意識をして食事を少し小さく切ってみたり、軟らかいものを増やしてみたり・・・などの工夫を始める方も多いでしょう。
しかし、この『刻み食』は、そのまま食べるより実際はもっと危険になると言われているのをご存知でしょうか?
「刻み」は「咀しゃく」の代償ではない
私たちは食事の際に、食べ物を口に入れ、モグモグと噛みます。この噛むことを「咀しゃく」と言います。加齢とともに噛む力が衰えたり、病気や障害により噛むことが上手くできない場合、食事を刻んであげれば、その代償ができるのではないだろうか?と思いますよね。
しかし実はそうではないんです。
そもそも「咀しゃく」とは?
正しい「咀しゃく」ってどんなものでしょうか?
咀しゃくの目的、それは・・・
食塊(しょっかい)を作ること
食塊とはなにかというと、『食べ物を唾液とともにすり混ぜたもの』です。この「すり混ぜる」と言う動作は非常に複雑で、顎の動きと舌・頬・唇の動きなどが連動して、ようやくできるようになるものです。
唾液とすり混ぜることでどうなるかと言うと、ネチョっとしたまとまりになります。このまとまりのある塊が食塊なのです。
食塊の旅
食塊が作られると、舌の複雑な動きを使って、喉の奥に送り込み、ゴックンという音とともに食道に入り、胃へ送り込まれます。
つまり咀しゃくの後はもう、「飲み込み」に続いていくため、咀しゃくが終わった時点で食べ物は「丸飲みできる形」に変化していないといけないのです。
刻み食は丸飲みできるのか
そこで冒頭の「刻み食」に戻ります。「刻み」を「咀しゃく」の代償と位置付けた場合、これは丸飲みできる形態でなければいけません。
実際はどうでしょうか?
肉じゃがのみじん切り。うん、まだいけそう。
きゅうりのみじん切り。うーん、バラバラですよね?
イカのみじん切り。え…っと、ちょっと怖くなってきた。
シシャモのみじん切り。え?子持ちシシャモですよね?モソモソじゃないですか?
パンのみじん切り。え?それってパン粉ですよね⁉丸飲み?できるわけないよね?
そうです。刻んだだけでは、丸飲みできないのです。つまり、「刻み」は「咀しゃく」の代償ではないのです。更に言うと、口に入ったとたんにバラけてしまい、下手すると喉へ数粒ポロポロと零れ落ちるため、普通食より危険度が高まるとも言えます。
体験者語る
先日、東京都葛飾区にあります出張歯科四つ木(☆)の池川裕子先生のもとで、PTの豊原さんがVE(嚥下内視鏡)検査を体験することになりました(☆)。その際、私のリクエストでパン粉を用意していただきました。
豊原さんのコメント「パン粉が一番つらい・・・」
ぷっ…すみません、豊原さん(;^ω^)
その際のVE画像にも、咀しゃく段階からポロポロと喉へこぼれるパン粉や、張り付いたパン粉を牛乳で流そうと試みるも綺麗にならないといった様子が、リアルに映し出されていました。
怖い怖い(;^ω^)
刻み食をやめよう
ここまでお読みいただければ、刻み食って怖いな、意味ないんだなってお分かりいただけると思います。
しかし、なぜ刻み食が世の中から無くならないのか。
答えは簡単です。
「作るのが簡単だから」
病院・施設・学校などの集団調理の場合、普通食を基準に献立を考えます。
そして、調理された普通食の一部を取り分けて、刻んだりミキサーにかけることで、嚥下食を作ることが、調理面の効率上最も簡便なのです。
その点からも、なかなか刻み食を現場から無くすことができない事情があることも知っています。
けれど、やはり「危険」と隣り合わせの食事は無くしたい。
「食」は「人」を「良くする」と書きます。
笑顔で包まれる食事がどこでも提供されるようになってほしい。
その為にも、この食事形態についての話をいろいろな場所で伝えていきたいと考えています。
※ 刻み+トロミ食はOK?→☆
※結局、刻み食やめてどうするの?→☆
【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。
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