お子さんへの訓練を行っていると、入学と同時に訓練時間が確保しにくくなる現状があります。その為、長期休暇中などはなるべく児童さんの時間が取れるように工夫をしています。今月に入り、夏休みが近づいてきたため、皆さんそれを意識されているのか、児童さんの戸別訪問の予約が増えてきました。
そんな中、今日、訪問看護勤務の頃からのご利用者さん(Aちゃん)から嬉しいお知らせがとどきました。
Aちゃんはダウン症です。幼児期から私が訪問させていただいており、私の独立後も継続して利用してくださっている方です。とはいえ訪問看護ステーション利用の頃に比べれば、訪問頻度は減らしているのですが、就学後に、学校で少し歯車の合わない時期があったため、心配していました。
LINEで夏休みの予定をお母さんと確認する中で、お母さんから嬉しいご報告が。
「宿泊学習に行けたんです!」
Aちゃんとお母さんの性格上、そこにたどり着くまでにきっとたくさんの不安があったのは間違いなく、とても感動しました。
いろいろな不器用さのある子です。お母さんは本当に真面目で献身的で熱心な方です。
だからこそ私は、訪問看護勤務の頃から、ほとんどAちゃんに個別の機能訓練はしていませんでした。家庭での訓練において、「個別訓練」が必要な場面は本当に少なかったのです。一番必要なことは何か。
「お母さんをプロフェッショナルに」
訪問ですから、家に入ったときには既に遊んでいます。Aちゃんが遊ぶ空間にそっと立ち寄らせてもらうのが仕事です。だからこそ、私が発信して誘導して行う課題なんて必要ありません。
私はAちゃんをひたすら観察し、今の発達状況を事細かに解説します。視線はどうか、口の動きはどうか、言葉はどうか、手先、肩、体幹、下肢、股関節、座位、歩様、足首、足の指、爪の形、食事、栄養、水分、排泄…それらに対する気付きをひたすら解説します。
そして、次にできるべきこと、気を付けたいこと、改善したいことをさらに事細かに説明します。
それをお母さんはひたすら聞きます。
私はAちゃんのプロフェッショナルにはなれません。お母さんがプロフェッショナルであれば良いんです。
必要なのは個別じゃなくて、家庭という戸別空間を整えること。
私たちセラピストはどうしても、本人へなにかアプローチをしようとします。本人への働きかけが本人を変える一助となるよう、訓練を行います。けれど日々関わっているのは、他でもないお母さん・お父さん。
私たちが関われる時間は月にわずか数時間。だったら、一番近くにいる人に専門家になってもらえばいいんです。
わたしはいつも言います。「お母さん、私はAちゃんをずーっと支援することはできません。ほんのわずかな時間しか一緒にいられないんですから。だからAちゃんの専門家じゃないんですよ。Aちゃんのお母さんをプロフェッショナルに育てる専門家なんですよ。だからこそ、私はAちゃんの”今”をお母さんにお伝えします。お母さんはそれを聞いて、Aちゃんとの関わりに活かしてくださいね」と。
お母さんがAちゃんのプロフェッショナルとなり、しっかりと見つめる。そしてAちゃんの発育や情緒を知り受け止める。学校や周囲の方へも、お母さんから情報を発信して、対応をお願いしたり、伝えることができるようになる。それが乗り越えられたから、宿泊学習にだって行けたんだと思うと、やはり私は「お母さん」にはかなわないな。そう思うのです。
やっぱり戸別支援は楽しい。
【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。
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