あの人の中に居る私

『リハビリテーションを卒業する』
これは私たちセラピストにとって
とても難しく大切なテーマです

先日昔の利用者さんのお宅へ
遊びに行きました(※記事⇒)
その利用者さんは
四肢麻痺ですべての活動が全介助のかたです
訪問看護ステーション勤務の頃から
数年にわたり訪問していましたが
しかし「話せる」「食べられる」方なので
STとして、いわゆる典型的な機能訓練を
必要とする方ではありませんでした。

初対面のとき
すでに訪問に入っていたPTの先輩の
同行訪問という形で訪問したのですが
初めましてと言うこともあり
基本的なSTとして評価をしました

そのときにたくさんお話をして
とても相性が良かったのか
お互い大笑いしながら1時間が過ぎ
楽しい時間をすごしました
そんなこともあったためその利用者さんが
もっと長岡さんと話したい!と仰ってくださり
STの訪問が開始になった・・・
という、ちょっと変わった経緯での介入でした

介入後はもちろん
発音(構音)の障害に対してアプローチしたり
食事をより安全に摂る方法や
ヘルパーさんへの指導・・・などしていました

が・・・
パソコンの操作を中心とした
ご本人の生きがいの構築に力を入れ
殆どの時間を
パソコン教室か悩み相談という形で
過ごしていました
(それが良いかは別として・・・(;^ω^))
訪問するたびにまるでパソコン教室
でもそれを維持できなければ
その方らしい生活がおくれない
そう思っていたのです

話せるけれど不明瞭な発音の方だったので
パソコンで文字が打てることは
意思表出として
非常に重要でした

そんな中ときどき聞かれる悩み
「食事のとき、おかずが口に残ってるのに
ストローを口に入れられると
むせちゃうんだよね・・・」

「歯磨きのとき
口内炎の場所が見えないみたいで
痛いんだよね」

その都度
食事介助方法や口腔ケアについてを
ヘルパーさん向けにまとめていました

そのまとめ・・・
普通なら書面でお渡しするのですが
この方の場合はパソコンが使えるため
データをお渡ししていました

入所が決まり訪問看護終了へ

お別れにお手紙を渡したのですが
自力で手紙を広げることはできないため
それもデータでお渡ししました

時が流れ、訳あって退所を選ばれ
自宅へ帰ってこられたとの噂を耳にし
先日挨拶に伺いました

これまでどおり
たくさんお話しするなかで
ふと彼女が操作するパソコン画面を見ると・・・

「長岡さん」というフォルダが・・・

私がこれまでお渡ししていたデータを
すべて取っていらしたようで
通所・入所・ヘルパーと
スタッフや環境が変わる都度
注意事項等を説明する代わりに
読んでもらってい・・・と。

入所と同時に
訪問看護ステーションからのリハビリが終了となり
セラピストとのマンツーマンの訓練は
なくなりました

けれど
彼女の中で
私の訪問が
私のリハビリーテーションが
生きている・・・

私は訪問看護で訪問していた際に
機能訓練をしていないことに
多少なりとも迷いがありました

けれど
私の訪問が無くなっても
彼女の生活は続いていて
彼女の生活の中に
わたしの行っていたリハビリテーションのアプロ―チが生きている

私たちセラピストがいなくても
彼女が安全に充実した生活を送れる
これがリハビリテーションの卒業なんだな、と
感じられた瞬間でした

【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。