【びぃどろ講座】食事、寝てて大丈夫?

私がアドバイザーとして介入している施設の中には、新入職員の方が、嚥下障害のある方に対して食事介助を行う際に、初回は私が同席で行うことを徹底している施設があります。今日はそこでの出来事について。

こんなに寝て大丈夫?

さて、今回のご利用者様Aさん。胃瘻と経口摂取併用の方です。誤嚥するから、ということもですが、なにより食事の量を十分摂れないので、栄養補助として胃瘻を使っています。

ティルト式の車いす(下図参照)を使用しているのですが、身体を50度くらいまで倒して食べさせてもらっています。そこで新人スタッフさんから「こんなに身体を倒すと不安なんですが…」との言葉。さて、大丈夫でしょうか?

実際のティルトの角度

どんな食べ方?

さて、このAさんは嚥下障害があります。食事形態はムース食。このムース食をスライスして口に運びます。そして…つるんっ!と喉に滑り落ちます!!なんとも怖い!!このまま喉に流れ落ちて、窒息するんじゃないだろうか、と不安になる食べ方です。

このAさんは、先天性のご病気があり、なかなか口を上手に使えるように発達できなかったという経緯があります。そのため、口に入った食べ物を自力で喉に送りこむのが非常に苦手。だから重力で喉に向かって食べ物が落ちなければ、なかなかスムーズに飲み込むことが出来ないんですね。

けれどそのまま、つるんっ!と詰まったらどうするの?って思いますよね?そう、それはとっても怖いんです。ですがこのAさんはこの食べ方をしてもらっています。それは、これが一番上手に食べられるからです。

なんで安全なの?

Aさんの場合「送り込み」が苦手だけど、「飲み込む」ことは比較的上手。送り込まれた食べ物を自分のタイミングで、「“せーのっ”でごっくん」とすることが出来ます。ですから送り込みは、ほぼ重力に頼り、飲み込むのは自分でコントロールしたい、そう言う能力の方です。

身体を後ろに倒すとどうなるかと言うと、送り込みは重力で流ますが…

喉の奥に到着した食べ物が、飲み込まれる場所まで移動するには、すべり台のようにゆーっくりと滑る必要があります。

これがもし身体を起こした状態だったらどうでしょう?
後ろに送りこむために重力を頼ることが出来ません。

更に奥に到着した食べ物は、今度は重力で一気に下に落ちるため、「ごっくん」のタイミングが合わなければ窒息してしまいます。

ですからこのAさんにとってはこの「身体を倒した状態」というのが、ベターな食べ方、と言えるのです。

あなたにとってのベター

もちろん嚥下障害ですから、どれだけ工夫をしても、リスクはあります。けれどだからって食べるのを止めなさいとは言えません。だからこそ、姿勢や食事形態で最も適切な方法を模索することが必要です。

この身体を倒して食べるということは、誰にでも適しているものではありません。あくまでそこの施設の食事形態と、Aさんの能力とのバランスから評価して、この姿勢での食事が最も安全と判断できたからです。

その人その人にとってのベターがある。これを模索することが私達言語聴覚士に課せられた仕事なのです。

【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。