【だんらんストーリー】パーキンソン病でもおせちを作りたい

昨日のブログ記事で、私がおせちを作りたいという話を書いたのですが(昨日の記事はこちら→☆)、その記事を書きながら、ふと以前のご利用者様について思い出したので、今日はそのお話。

若年生パーキンソン病

パーキンソン病という病気をご存知でしょうか?難病の中でも比較的有名な病気かと思います。一般的には50〜60歳代の発症率が高い病気で、手足の震えなどの症状から始まり、身体が思う通りになかなか動かなくなる病気です。

しかしまれに、20歳代のお若い頃に発症され、生活に大きな影響をうけ、長年症状に悩まされる方もいらしゃいます。

今日はそんなAさんの話になります。お若い頃にパーキンソン病を発症され、長年その症状と闘っていらっしゃいました。元々研究職をされていらっしゃるほどの聡明な方で、仕事もバリバリにこなしていらっしゃいました。子育ても熱心で、料理もなんでもこなす、素敵なお母さん。そんなお母さんが若年生のパーキンソン病を発症され、そのご数十年パーキンソン病とともに過ごしていくのです。

料理がしたい

Aさんはバリバリのキャリアウーマンでしたが、主婦としてしっかりと家事をこなしていらっしゃいました。特に好きなのが「料理」。ご家族が多かったこともあり、毎日たくさんの料理を作っていらっしゃいました。

お子さんが独立されたり、同居していたご兄弟が引っ越されたりする中で、徐々に家族構成が変わり、同居する人数も減り、ご夫婦分の食事を用意するだけになっていきます。

たった2人分の食事。けれどそれすらも徐々に作ることが難しくなっていきます。

歩いて台所へ移動することもままならず、杖や歩行器を使ってなんとか移動するようになっていきました。それでも家事がしたい。周りは「そこまでしなくても・・・」と言う思いが湧いてきます。けれど、そう言う問題じゃない。純粋に今まで当たり前にやってきたことをしたい。それがこの家庭での自分の役割だから。そう思えるのです。

訪問リハの中で

訪問のリハを定期的に利用していたAさん。その訓練の中で、料理をしたいことを常々口にされていました。そして年末が近づいてきたある日、「おせちが作りたいな」とおっしゃったのです。

おせちって実は結構大変ですね、少量ずつたくさんの種類を・・・と考えると、本当に手間暇がかかってしまいます。けれどお元気だった頃から毎年作っていたおせち。病気の進行とともに作ることを諦めていたけれど、やっぱり作ってみたい。

じゃぁ、作ろう。

訪問リハのメンバーと協力して、作ることにしたのです。

お品書き

いくつか相談して、作る種類をピックアップすることにしました。

そうして決めたメニューが「紅白なます」「数の子」「煮しめ」「黒豆」「タラの煮付け(郷土料理)」です。

これらを作るための材料を書き出し、買い出し・下ごしらえ・調理の日にちを逆算し、工程表を作りました。

例えば郷土料理のタラの煮付け。これは乾燥したタラを使うので、数日前から水に浸けて戻す必要があります。また身体が不自由ですから、一気に作ることはできないため、作る日を分散させて、黒豆や紅白なますは事前に作り、冷凍する方法を取りました。

年末年始がすぎて

年末ギリギリの訪問で、どうにか工程表通りに進めることができ、大晦日にはご家族の方の協力でおせちを完成させたAさん。年が明けてすぐの訪問の際に、家族と一緒におせちを食べる様子を写真に収めており、見せていただくことができました。

お孫さんが、紅白なますを非常に気に入って、何杯もお代わりしたとのことで、娘さんもとても嬉しそう。

翌年も同じように工程表を作って、おせち作ろうねと約束をしたのです。

ところが1年後は体調を崩され、1品しか作ることができませんでした。実は、癌に侵されていたんですね。それでも作りたかったおせち。1品でも作ることができたらと言う想いはとても強かったんですね。

しかしその数ヶ月後、このAさんはお亡くなりになりました。癌でした。

最後のお別れをと、ご自宅に挨拶に伺ったとき、娘さんから、「あのときのお節の紅白なますはホントに美味しかったですよね~」と笑顔で言われました。

じんときたのをよく覚えています。

主婦にとって料理は家族のためにするもの。
そして家族だんらんを作るもの。

普段の食事は、バタバタと料理してしまいますが、お正月のおせちのような行事食はやっぱり丁寧に作りたい。

そんな想いがAさんから娘さんへ。そしてきっとお孫さんへも届いたことと思います。

大切なことを教えてくれたAさん。また来年も、私はおせちを作ろうと、改めて感じました。

【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。