【びぃどろ講座】虐待を無くそう

先日ファミレスで、ちょっとした事件がありました。この事件について、SNSに投稿したところ、思いの外、反響があったので、今日はこの話題。

「キチ○イババァ!!!!」

ある日、私は市内のファミレスで、パソコン作業をしていました。店内はガラガラ。数組しかお客さんがいません。私が座った席の正面に2人組の女性が座りました。店内は非常に静かで、ほとんど会話も聞こえません。

すると突然店内に「何やってんだよ!!」と怒鳴り声。
「ん?」と思いながらも、誰が叫んでいるのかはわからない。数回怒鳴り声が聞こえて、ようやく目の前の女性が叫んでいるらしいと気がつきます。しかし、少し恰幅の良い方でしたので、誰に叫んでいるのかは全く見えません。

パソコン作業中だったので、本気で聞くわけでもなく「なんか喧嘩かなぁ?」と思い半分無視していましたが、ますます怒鳴り声が大きくなる。

「どこで拭いてんだよ!」
「その汚ねえ手でどこ触るんだよ!」

と繰り返し叫んでいます。しかし、誰に叫んでいるかは見えない。

そして
「食べるしか能が無い、このキチ○イババア!!!!!」とびっくりする言葉(・_・;
叫んだと同時に席をたったその女性は、そのままレジに向かっていってしまいました。

女性が立ち去って見えたのが一人の老婦人。
目が虚ろで、状況を飲み込めていないのか、キョトンとされています。離席したその女性を探し慌てて追いかけてレジで合流していました。

認知症介護の壮絶さ

多分あの老婦人は認知症なんだと思います。そして、それを介護する娘さん?なのかなぁと予想。この場面だけ見れば、それは確かにひどいですし「虐待かな?大丈夫かな?」と心配はしますが、何も身動きが取れないのが、ほとんどだと思います。私も何もしていません。

けれど、日々の介護疲れが爆発しただけかもしれません。誰も何もわからないのです。

虐待現場を目の当たり

この出来事をきっかけに、10年以上前のことを思い出しました。訪問看護ステーション勤務の頃に、先輩と訪問した帰り、助手席に乗っていました。歩道を今にも倒れそうにヨタヨタと歩く老人がいました。先輩に「あの人、危なく無い?」というと「おかしいね」となり、私は車を降りて救助に向かいました。

床に座り込むおじいちゃん。「大丈夫ですか?」と声をかけると「助けてください!」と言われます。明らかに異臭で、全身ベタベタ。すると向かいの歯科医院の看護師さんが出てきてくれました。

看護師さん曰く、座り込んでいた場所にあるビルのオーナーとのこと。数年前に脳梗塞を患っていって心配していたと。さらに、隣のビルに息子さんがいるので、連れてきますと言われ、連れてこられました。

息子さんがこられて第一声が「なんで勝手に外に出てんだよ!!」。え?私たちに対して目すら合わせません。ビルの入り口に全員で向かい、このおじいちゃんを部屋へお連れします。ドアを開けると、古びたバーでした。そこに荷物が散乱しており、異臭が漂っています。え?ここは家じゃ無いよね?おじいちゃんは疲れた様子で部屋のソファに座りました。

息子さんに私の名刺をお渡しし、お父さんの様子から何かしらサービスが入った方が良いのでは無いか、うちの事業所でも力になれる旨を説明しました(ケアマネもヘルパーもある事業所だったので)。しかし息子さんの目つきが恐ろしく、またあまりの光景に怖くなり、それ以上は何もできなくなりました。名刺を渡したことで、私の素性を明かしたことになり、逆に通報が恐怖と感じたのです。

向かいの歯科の看護師さん曰く、おじいちゃんが家主で無料でビルに住めていて、仕事もせずに家賃収入だけで過ごしている。ということだった。ここで通報したら、一生恨まれるのは請け合い。そう思うと、全く身動きが取れなくなったわけです。

通報義務

現在は法整備もなされており、児童虐待だけではなく、高齢者の虐待に対しても、法律に明記されるようになりました。とは言え、虐待自体がなくなる効果があるのかどうか…なくならないだろうな、と思っています。多分みなさん同意見かな、と。

私がこの話をSNSであげた時、やはり通報をするように言われる方が数名いらっしゃいました。もちろんその通りです。通報をすべきだったんでしょう(当時は高齢者虐待防止法はありません。)。けれど私はしなかった。できなかったとも言えますが、身の保身のために、しませんでした。

これって、誰もが起きうることだよなぁと思います。

ニュースで取り上げられることは、虐待の最悪なパターンだったり、通報を受けた人のミスについてだったりします。すると、「通報することも悪」みたいな印象になりがちですね。
しかし児童にしても高齢者にしても、ほとんどどの家でも虐待の可能性はあり、今まさに隣の家で行われている可能性があるものです。そう考えると、せめて表に見えた時には、通報をしなければならないな、とおもいます。

閉ざされた家庭と閉ざされた心

昔に比べて、隣近所との付き合いも乏しい時代です。そのメリットもありますが、デメリットとしては「隣で何が起きているのかわからない」ということ。生活サイクルが多様化していることもあり、近所の方と顔を合わすことなく過ごすことがあたりまえになってきました。けれどその弊害として、誰が何をしているかわからない。

私は都会出身の田舎暮らしです。その違いは明らかです。隣近所みんなうちのことを知っている有り難さ。ただし、自治体の活動などが多い面倒さ。どちらが良いかはわかりません。

けれど、生活サイクルの多様化に合わせて家を閉ざすことはあっても、近隣の人との関係を閉ざすのは危険です。どれだけ法律を整備したとしても、家庭内の危険な出来事に気がつけるのは、やはり地域の人なのです。

学校の先生も、施設の職員も、どこの人でもその建物を出たら何もしてあげられません。家庭でどう過ごしているのか、予想することはできても見ることはできません。地域が繋がることは、地域の脆弱化の予防になります。地域を弱らせず。これからの未来に備える。これが必要なのかもしれません。

何もできない無力な私ですが、通報もできず、誰も助けられなかったので、こうやって記事にすることで読まれた誰かが、また誰かを救う一助になると信じて。

通報窓口

虐待は各地域により通報窓口が異なります。

高齢者の場合、地域包括支援センターに連絡することが望ましいでしょう。
児童の場合は「189」が全国共通の通報ダイヤルです。

【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。