【戸別訪問】お兄ちゃんはスーパーマン

生まれながらにしてお子さんに病気や障害がわかると、ご両親はそのお子さんへの対応に日々追われます。そして、それはもちろん、兄弟児も一緒です。今日は兄弟児についてのお話。

僕、お兄ちゃんになる

私には3歳離れた兄がいます。離れて暮らしているので、会うことは滅多にありませんが、非常に仲は良いです。大学時代、下宿先から帰省すると、必ずどちらかの部屋で夜まで話し込んでいた、と言うほどなので、まぁ男女の兄妹にしては仲良い方だと思います。今でもちょくちょく連絡は取り合っていますし、お互い何の遠慮もなく話せる同志といったところでしょうか。兄も私を可愛がってくれるので、良い関係で大人になれたなと思っています。

私は次子の立場なので、長子の立場はわかりません。けれど、自分の弟・妹が生まれると言うのは、きっと特別な感覚だろうな、とは思います。

私が訓練を受け持つ対象児さんの中には、兄弟児がいるお子さんも多くいらっしゃいます。上のお子さんであれ、下のお子さんであれ、男の子であれ、女の子であれ、ご兄弟の性格も本当に様々ですが、彼らを含めて家族が成立しているのは言うまでもありません。

先日の戸別訪問のお子さんAちゃんにも、お兄ちゃんBくんがいました。そうBくんはお兄ちゃんになったのです。

お兄ちゃんになったから我慢?

下のお子さんが生まれ、そのお子さんに病気や障害があった場合、ご家族はその治療やケアに日々忙殺されていきます。上のお子さんはこれまで両親の顔が100%が自分に向いていたところ、50%どころか30%、10%と少なく感じてしまいます。ましてや、下のお子さんに入院治療などが必要だった場合、ママも入院してしまうため、ママとの関係を分断された恐怖を感じることもあるでしょう。

Aちゃんが生まれ、お兄ちゃんになったBくんは、そんな中過ごしていました。

入退院を繰り返すAちゃんとママ。あれ?僕、お兄ちゃんになったけど、なんだかとっても不安だぞ?

兄弟児はスーパーマン

私が担当児の家へ訪問する場合、兄弟児は常に意識しています。多分世の中の在宅リハビリのセラピストはみんなそうだと思いますが、やはりキーパーソンの一人であることは間違い無いのです。

Bくんは、私の訪問を非常に喜んでくれます。私の周りにきて、新しい玩具を見せてくれたり、Aちゃんが泣いていたら、それを一生懸命解説してくれます。両親のAちゃんへのケアを感じ取り、なんとか自分も両親の力になろうと、一生懸命。Aちゃんも知ってか知らずか、一生懸命にBくんにアプローチ。またパパやママも、なるべくBくんに関わってあげようと一生懸命。

Bくんは、しっかり者のお兄ちゃんであり、甘えたい盛りの息子であり、一緒にAちゃんのケアをする仲間であり、オンリーワンの人。そう、なんでもできるスーパーマン。

「選んで生まれてきた」と言うけれど・・・

よく、「あなたの家だから、子供が選んで生まれてきた」とか「乗り越えられる両親のところにしか障害のあるお子さんは生まれない」なんて言葉を聞きます。

Aちゃん、Bくんの兄弟のところもそうなのかもしれません。

でも、私は実はこのことば、あまり好きではありません。
私だったら、つらいな、と思ってしまいます。追い詰められるような気がします。
Bくんだって、そうなりたくてなってる訳では無いよなぁなんて思ってしまいます。

Aちゃんの障害を家族が受け止めることは必要ですが、それを、美談のようにするのは少しずれている、と思っています。「障害」を否定してはいけないって、当事者からしたら、結構つらい時があると思うのです。

つらいものはつらい。

過去の自分が見えない力で選んだんだ、と言ってしまうと、「だから受け入れないといけない」という呪縛にかかるように思います。

選んでない。
全部、偶然。
誰の意思でも無い。

それでいいのでは無いでしょうか?

選んでない。これから選ぶ。

私も、決して生育歴が恵まれているか、と言うとそうでもありません。けれどそれも偶然ですし、それはただの事象であって、そこに意思の介在はないと思っています。選んで生まれたわけじゃない。その、たいして恵まれていない生育歴に対して、「乗り越えられるから、この家に生まれた」とか壮大なこと考えたこともありません。

ただ、自分の未来を楽しくすることは考えて行動しようと思っています。
過去は選んだものではないけれど、未来はこれから選べるからです。

育児にしても療育にしても、これからをどうするかは選べます。
そして、その育児・療育を受けて、兄弟児を含め、お子さんがどう感じ取るかは、お子さん自身に委ねられるものです。どう感じ取り、どう成長していくかは、お子さん自身が選ぶものばかりなんです。
だから両親ができることって、案外限られてるのです。

だから、両親がどうしたいのかを、見つめ直すことは必要です。
「子どもにどんな育児や療育がしたいか」ではなく、「両親自身がどんな未来を生きたいか」と言うことを考えることが重要なんです。

変えられること・変えられないこと

「過去」と「他人」は変えられない
「未来」と「自分」は変えられる

病気や障害を抱えるお子さんと過ごすと、どうしてもそのお子さんの未来を悩んだり、過去を悔やんでしまうことが増えると思います。また、兄弟児に対しても、もっとこうしてあげられた?とか、兄弟児が情緒穏やかに育ってくるか不安になったりするものです。
けれどどれだけ、育児や療育に力を入れたところで、変えられることって、「自分」と「未来」だけ。たとえ自分の子どもでも、親の力で変えることってできないものです。

だから、両親がお子さんの未来をどうしたいか、と言うことを考える以上に、自分自身の未来をどうしたいか、それを考えることって実はとっても大事なことなのです。

ご両親が、きちんと自分のことを大事に考えていれば、お子さんもそれを見て育つので、兄弟児も自分を大事にする方法を学び、成長していくのです

「兄弟児支援」は「戸別支援」

AちゃんとBくんの兄弟のお話に戻します。
どうしても、療育やケアの比重が大きいAちゃんによって、Bくんの生活が大きく揺り動かされます。それをご両親、特にお母さんは感じ取り、Bくんの情緒発達などに対して不安を感じ、その不安を吐露されます。

けれど、やっぱりBくんに対してできることって、限られるのです。たとえお母さんであっても。
Aちゃんのケアに忙殺され、疲弊しているお母さんであれば、きっとBくんは、不安になります。Aちゃんのケアをしつつも、疲弊しすぎないラインで自分を保つ工夫をしているお母さんであれば、Bくんは安心します。
かといって、自分のためにAちゃんのケアを放棄しているようなお母さんであれば、Bくんはケアを否定するようになります。

そのバランスを取るために、情報を提供することが私の役目なのだと思うのです。

ケアに忙殺されない
ケアを適度に手放す
ケア内容に後悔しない
ケアを放棄しない

これらのバランスって、本当に大変。
明確な方法があるわけではありません。でも私が目指す家族への支援って、これなんです。

病気や障害を抱える本人への『個別支援』だけではなく、兄弟児やご両親、家族全員が自分を大事にできるよう過ごせる、そんな環境を整えることが、『戸別訪問』の目指すところなのです。

【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。



2 件のコメント

  • こんにちは。
    私も訪問看護ステーションで働いています。
    理学療法士です。
    職歴20年のうち、14年ほど訪問看護ステーションで働いてきました。今のステーションは8割が医療保険の利用者さんで、小児の利用者さん率高いステーションです。
    兄弟姉妹さん達への心遣いも色々考えてます。
    自分と未来は変えられますものね!!!
    これからもそれを思い起こしながら仕事していこう思いました!

    • 渡辺恵さま
      コメントありがとうございます(^-^)
      訪問看護ステーションでは、最近は小児の訪問が増えてきている印象がありますね。
      恥ずかしながら病院勤務の頃は、家庭のことをそこまで考えていませんでしたが、在宅だと兄弟児の関わりが直接感じられるようになり、兄弟児から教わることが多いなと思います。
      家族支援のありかたは、答えがないので難しいですが、より良い支援につながるようお互い頑張りましょうね(^-^)♪