【びぃどろ講座】在宅で嚥下訓練って怖い!?

言語聴覚士(以下ST)が行う仕事の中に、摂食嚥下機能評価というものがあります。この評価方法において、病院と在宅では大きな違いがあります。

現在、全国のSTの人数は3万人を超えます。その全員が現場で働いているわけではありませんが、現場で働いているSTの大半が病院などの医療機関勤務かと思います。

私は病院勤務後に訪問看護ステーションに長く勤務した関係で、急性期から在宅までの流れを経験し、嚥下機能評価の違いを感じてきました。今日はその違いについて、私なりに考察してみました。

在宅で嚥下訓練って…怖い!!

病院勤務のSTさんによく聞かれます。
「VFも吸引器もないのに、在宅で嚥下訓練って、怖くないんですか?」

本当にみなさん、それを言います。面白いほどに(笑)

私の答えは・・・

「いや、大丈夫。怖くないです」

別に、私が怖いもの知らずだからとか、私がスーパーSTだからとか、そういうことではなく、明確な理由があります。
その理由とは、在宅の食事評価の際には、病院とは大きく違う前提条件があるからです。

病院と違う在宅ならではの前提条件って?

そもそも病院では、肺炎や脳梗塞などの何らかの原因で状態が大きく悪化した方に対して、嚥下機能評価を行います。そのため、病院での評価の前提条件として、対象者(患者)は誤嚥する(している)可能性が高いということが挙げられます。そのため、基本的には食べられない状態からのスタートであったり、最も低リスクの段階から評価をスタートします。そして、状態の回復に合わせてステップアップさせていくのです。

しかし在宅の場合、前提条件が異なるんです。
ケアマネさんからの依頼があり、ご自宅へ嚥下の評価に伺います。そこで評価をするわけですが、その対象者さんって・・・

前提条件その1

在宅で食事評価に伺う際、その対象者さんって・・・

少なくとも今日の朝ごはんは、食べているんです

しかも、無事に。
少なくとも、訪問するまでは発熱もなく。

だから在宅の嚥下評価は
何を食べているのか
どうやって食べているのか
誰が食べさせているのか
なんでその食事内容なのか・・・などの
実際の現状把握が目的なのです。

無事に食べてるんですよ
無事じゃなかったら、今頃、救急車に乗っているので、訪問リハとか受けている場合じゃないんです。

ほら、ね?
少し安心できませんか?

前提条件その2

それともうひとつ「在宅の嚥下機能評価が怖くない」と言える、最大の理由があります。

私が食べさせないからです

もし在宅リハをしているSTさんで、初回評価を含めて“STが食べさせている”という方がいらしたら、それはお勧めしません。というか、意味がありません。だって、私たちSTが介入する以外の食事は誰が食べさせるんですか?

食べさせている方が配偶者なら配偶者を、親なら親を、お子さんやお嫁さんなら彼らの食事介助の様子を確認し、そこへアプローチをすることが本来の私たちの仕事です。

ですから、私は基本的には自ら食べさせるということはしません。
「こうするんですよ」といって見本を見せることはありますが、セッション中私だけが食べさせるということはしたことがありません。

ほら、ね?
在宅での食事評価って、案外怖くないんです

在宅での食事評価

病院などで評価をする際は、STは「嚥下」に特化して機能・能力を見ます。しかし、上述の通り、私のような在宅を主体としているSTの場合『食事』を見るんです。「嚥下」ではなく「食事」なんです。

食事には、嚥下機能のことだけではなく、家族構成などの家庭背景や、テーブル・椅子などの環境、食具、栄養、生活リズムなど複合的な要素が含まれます。

ですから在宅のSTはこれらを総合的に判断して、「この方にはこれ!」という食事環境を導き出すことが求められます。

「今日の朝ごはん、無事に食べてますよ」
「いつも通り、奥さんが食べさせていますよ」

これって、当たり前のことですよね?
私たち在宅STはその「当たり前の生活にそっとお邪魔して、ご家族が食卓を囲める支援をすることが必要です。

食卓を囲む。
そう、だんらんですよね。

私の「だんらんコーディネーター」という仕事は、本来のSTの仕事、そのものではないかと思っています。

在宅リハに興味のあるSTさん。
大丈夫、一緒にやってみませんか?

【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。