【質問】刻み+トロミ食ならOK?

先日『刻み食はやめて』という記事を書きました。(記事はこちら⇒)

“なぜ刻み食はいけないのか”をまとめると

  • 『咀しゃく』は食べ物を『丸飲みできる形にすること』
  • 刻んだだけの食事は、丸飲みできない
  • つまり『刻み』は『咀しゃく』の代償にはならない
  • それどころか口の中でバラけてしまい、その粒で誤嚥する

こういったことから、『刻み食』が非常に危険性の高い食べ物であることがわかります。しかしながら、病院や施設、支援学校など嚥下障害者がいる場所でも、『刻み食』を無くすことは難しい現状があります。

刻み食をやめることは難しい

もちろん施設の中には、嚥下障害への対応食は、献立の段階から食材を変えたり、調理方法を変えることもしていますが、それはやはりごく一部です。なぜかと言うと、予算がかかるのです。衛生基準の問題から、調理場の広さ、冷蔵庫の数、鍋などの調理器具の数、調理時間の確保、調理師の人員確保などの問題が付いて回り、人件費等を含む一定の予算が必要となるため、なかなか変更しにくい現状があるからです。

こういった理由からも、現場から「刻み食」が消えないことが分かります。

【質問】『刻み+とろみ』は良いんじゃない?

前述のブログ記事アップ後にわたしの元に寄せられたのが下記の質問です。

施設で「刻み食をやめて」と言ったところ、「とろみをつけているから大丈夫」「誤嚥で入院にまでなった人はいない(少ない)し」と言われます。とろみで実際何とかなるものですか?

今日はこれについて解説します。

半分正解・半分不正解

結論から言うと、「刻み+トロミ」での対応は、半分正解・半分不正解、と言えると考えています。

咀しゃくの目的が「唾液とすり混ぜる」ことならば、前半の『唾液と』「とろみ」で対応できるからです。しかし、『すり混ぜる』「刻み」では対応できないので、やはり半分不正解と言えます。

『刻み』を『すり混ぜる』にチェンジ

ということから「刻み+トロミ」ではなく『すり混ぜ+トロミ』はできないでしょうか?

つまりは、食物の繊維を細かく断ち切るのではなく、すりつぶして壊してほしいのです。切っただけでは断面の面積が狭く、とろみと結合する面積も狭くなり、まとまり性が落ちます。これに対して、すり潰せば壊れた繊維の隙間に、とろみが入り込んで、しっかりとまとまってくれます。だから「刻む」のではなく「擦る」で対応してほしい。

しかし、調理段階で「擦る」というのは、集団調理の現場ではなかなか現実的には難しいです。そのため、食事介助を行う人が代償するのが良いでしょう。

そこで問題なのが「すり混ぜられない固さの食べ物」です。どれだけトロミとうまく混ぜようとしても、食材そのものが固すぎれば、うまく擦り混ぜを行うことはできません。ですから調理段階で、固いものや線維質のものを提供するのは控えてほしい、となります。

つまりは「調理場では軟らかく炊いてほしい」
「食事介助では、トロミと擦り混ぜてほしい」
という、やや欲張りなお願いになります。
うぅーん、現実的には難しいですね。

でも実際、食べてるよ?

そんなこと言っても、実際現場で「刻み+トロミ食」食べてるよ?大丈夫だよ?という意見が聴こえてきそうです。そうです。食べてますよね、皆さん。

これ、答えは簡単です

食べられなかったら、ミキサー食にするから。だって、「刻み+とろみ食」で食べられない場合、刻みを細かくすることで対応することになるので、ミキサー食またはそれに近い食事にどんどんシフトしていくんです。なので、この段階で誤嚥する人はかなり限られます。ご質問の通り「入院にまでなった人はいない(少ない)し 」…、そう『少ない』んです、誤嚥する人は。この段階では。

じゃあこのままでいいの?

実際、調理の手間などから考えた場合、現実的な食事形態であることは間違いありません。なので、絶対反対とは言いません。ただし、あまり意味のある食事形態ではないな、と思っています。

丸飲みが前提の食事形態です。その粒を丸飲みできる能力の方が食べる食事。それを飲める能力があるなら、もう少し違う食事ができればいいなぁとも思います。病院のような一時的な食事ならまだしも、施設や自宅なら、ある程度長期間食べることになるので、食事を楽しめる配慮が欲しいなと思います。

軟らかく炊いて、普通の状態で提供して、食べさせるときにとろみと擦り混ぜたりできれば、視覚的にも、味わい的にも楽しくなるのではないか、と思っています。

絶対にやめてほしい人

ここまでで、刻み+トロミ食に対して、半分正解・半分不正解と言いました。けれど、完全不正解になる人がいるので、そこは強く言います。

子どもです

発達障害、とくに脳性麻痺などの肢体不自由児のお子さんの場合は絶対にやめてほしい。まだ正しい咀しゃくを学習する発達期です。その時期のお子さんに、『刻み+トロミ』を提供した場合、かなりの確率で『誤学習』をします。これは絶対に将来の食事能力に悪影響を及ぼします。食べられなくなっちゃうんです・・・。

正しい咀しゃくを学習させるためには、家庭はもちろん、お子さんへ食事提供する施設や学校では、丸飲みを前提とした食事が提供されないよう、十分配慮をしてほしいと考えています。そうした対応を施設や学校へ切に願っております。

【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。